Rock'a'Diner Mitsuo

日曜日の夜の夢

バレンタインデーの思い出

ある時、東京にギターを買い求めに行ったことがある。

楽家の端くれを走り続けて早10年が経ち、生意気にも実力そっちのけでビンテージのマーチンが欲しかった。ロックンロールにのめり込み、探していたのはエルヴィス・プレスリーと同じドレッドノート。地元の大きな楽器店を回っても、ここには無い。東京に行こう。

だけど本当はそんなことどうでも良くて、夜になって昔の仲間と酒を飲むのが楽しみで仕方がなかった。浮き足立つほど夜になるのが待ち遠しかった。

 

また失恋しちまったよォ。カウンターに腰掛けて、好きなハイボールを喉に流し込みながら面白おかしく笑ってみせる。その、まるでピエロのように板についてしまった情けない横顔を見て、連れ立ちの小町娘は苦笑する。色白でスッと通った鼻筋と切れ長な眼、クールに見えてそんな彼女は笑うと屈託無しに可愛らしく、艶やかな色気に吸い込まれそうになる。

もうすぐバレンタインね。あなたのことだから、どうせ今年もしらけてるんでしょう。
手渡された緑の小綺麗な箱は、雪降る街での楽しかった思い出の一片を呼び覚ますスイッチだった。パンドラの箱から溢れ出た思い出話やお互いの身の上話に花が咲く。あの時あの場所あんな事。周りの人間関係や、誰彼の嬉しい話、悲しい話。生き方のこと。

いつかは地元に帰るのかい…?

 

時が下りながらも、他愛のないやりとりが出来る友達こそが何よりの宝物だった。

あの狐っ娘、悔しいけど、全くもって良い女だ。

昔から変わらない。

f:id:c-d-mitsuo:20180206211933j:plain